Description
イスラーム法における婚姻は、男女を互いの満足と、提示と受諾、喜びと愛情に基づいて高貴な形で結びつけるものです。 しかし残念ながら、日本で年々増加する外国人ムスリムと日本人の結婚によって発生する家庭内問題が絶えません。これはひとえにイスラームにおける本来の結婚観や手続き、相手の選び方、また夫婦の権利と義務などにおける無知、そして信仰心の欠如に因を帰しているに違いありません。 ここでは本来のイスラームにおける婚姻の理解と徳、その法的手続きや婚姻の方法、またよい結婚相手の選び方などについて見て行きましょう。実によき伴侶はアッラーの偉大な恩恵の1つであり、また現世と来世における幸福へと導いてくれる大きな要素の1つでもあるのです。
婚姻①
] 日本語 [
النكاح1
[اللغة اليابانية ]
ムハンマド・ブン・イブラーヒーム・アッ=トゥワイジリー
محمد بن إبراهيم التويجري
翻訳者: サイード佐藤
ترجمة: سعيد ساتو
校閲者: ファーティマ佐藤
مراجعة: فاطمة ساتو
海外ダアワ啓発援助オフィス組織(リヤド市ラブワ地区)
المكتب التعاوني للدعوة وتوعية الجاليات بالربوة بمدينة الرياض
1429 – 2008
1-婚姻
● 婚姻の理解:
婚姻、及び夫婦関係というものは、至高のアッラーが定められた創造物の決まりごとの1つであり、動物界や植物界においても例外なく一般的に認められる現象です。
しかしアッラーは人間を、欲望に支配される動物界のようにはされませんでした。アッラーは人間に対してはその高貴さを保護し、尊厳さを保持し、そしてその卓越性に相応したシステムを定められたのです。そしてそれこそがイスラーム法の婚姻なのです。
イスラーム法における婚姻は、男女を互いの満足と、提示と受諾、喜びと愛情に基づいて高貴な形で結びつけるものです。こうして欲望は健全な形で解消され、子孫は喪失から免れ、女性はその尊厳を害する危険から守られるのです。
● 婚姻の徳:
婚姻は全ての使徒の慣わしであり、アッラーの使徒(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)が推奨したスンナ[1]の内の1つです。
1-至高のアッラーは仰られました:-そして(アッラーが)あなた方のために、あなた方がそこに留まるための配偶者をあなた方自身から創られたことは、かれのみしるしの1つである。そしてかれはあなた方の間に、愛情と慈悲の念を授けられた。実にそこには熟考する民へのみしるしの数々があるのだ。,(クルアーン30:21)
2-至高のアッラーは仰られました:-そしてわれら(アッラーのこと)はあなた以前にも使徒を遣わし、そして彼らに配偶者と子孫を授けたのだ…。,(クルアーン13:38)
3-イブン・マスウード(彼にアッラーのご満悦あれ)は言いました:「私たちは預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)と共にあった時、何も所有しない若者でした。それでアッラーの使徒(彼にアッラーからの平安と祝福あれ)は、私たちにこう言ったのです:“若者たちよ。あなた方の内で婚資を備えている者は、結婚するのだ。結婚は最も(欲望の)視線を低め、最も貞操を守ってくれるものである。そしてそうすることが出来ない者は、サウム(斎戒)せよ。実にそれは彼にとっての去勢[2]であるから。”」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[3])
● 婚姻とは:夫婦が互いに喜びを求め合うことを合法化する、法的契約のことです。
● 婚姻が定められたことに潜む英知:
1-婚姻は:家庭の構築とその緊密化、心の抑制や非合法な物事からの保護などを導いてくれる、健全な環境です。また婚姻はそこにおいて夫婦間の調和や愛情、喜びを得ることの出来る住まいであり、平安でもあります。
2-婚姻は:子供を授かり、子孫を繁栄させるための最善の手段です。そしてそこにおいて互いに知り合い、援助し合い、親しみ合うところの血縁関係を保護してくれるのです。
3-婚姻は:病気の感染などの恐れなしに、性的欲望やその他の欲求を解消することの出来る最良の手段です。
4-婚姻は:社会の核である健全な家庭を築いてくれます。夫は働き、稼ぎ、費やし、扶養します。そして妻は子供の面倒を見、家の切り盛りをし、生活を整えます。このようにして社会は正しく動くのです。
5-婚姻は:子供の存在によって育まれる父性や母性本能を満たしてくれます。
● 婚姻に関しての法的見解:
1-婚姻は、性的欲望があっても姦淫を犯す恐れのない者にとってはスンナです。それは婚姻に原因付けられる、男女及び社会全体に対するその多大な福利によっています。
2-婚姻は、もしそうしなければ姦淫を犯してしまう恐れを感じている者にとっては、義務となります。
また男女は婚姻によって、自らの抑制と、偉大かつ荘厳なるアッラーが禁じられた物事を犯してしまうことからの予防を意図すべきです。そうすれば、彼らの交わりには施しをしたのと同様の報奨が期待出来ることでしょう。
● どのようにして配偶者を選択するか?
(男性が)婚姻をする際には、宗教的に真面目で慎ましく、かつ子供を沢山産みそうな、愛らしい乙女を娶るのがスンナです。
アブー・フライラ(彼にアッラーのご満悦あれ)によれば、アッラーの使徒(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)は言いました:「女性は4つ(の特徴)によって(求婚され)娶られる:(それらとはつまり)その財産、家柄、美しさ、宗教である。ゆえに宗教的な女性を探すのだ[4]。決してそれを逃すのではない[5]。」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[6])
● 最良の女性[7]:
最良の女性はアッラーの命じられたことを行い、禁じられたことを避ける敬虔な女性です。
アブドッラー・ブン・アムル(彼らにアッラーのご満悦あれ)によれば、預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)は言いました:「現世は享楽であるが、現世の享楽の内でも最たるものは敬虔な女性である。」(ムスリムの伝承[8])
● 一夫多妻制に秘められた英知:[9]
1-偉大かつ荘厳なるアッラーは、男性が1度に4人の女性を娶ることが出来ることを合法化されました。これには男性及び妻側の性欲の抑制や、(結婚する機会に恵まれない)女性への善行、それによって社会が栄え、かつアッラーのみを崇拝する者が増えるところの子孫の繁栄など、数多くの福利が潜んでいます。但し一夫多妻をするには幾つかの条件‐つまり男性側の肉体的・経済的力、妻たちを公平に扱う能力など‐を満たす必要があります。もし妻たちを公平に扱えそうになければ、妻は1人に留めておかなければなりません[10]。
至高のアッラーは仰られました:-そしてもし孤児の女性(を娶ったら、その財産)に対して公正を貫けなさそうであれば、あなた方に合法な(それ以外の)女性を2人でも、3人でも、あるいは4人でも娶るがよい。そしてもし(複数の妻を娶ったら、彼女らを)平等に扱うことが出来なそうであれば、妻は1人だけにするか、あるいはあなた方の右手が所有するもの(奴隷のこと)だけに留めておくのだ。それが罪を遠ざけるのに最善なのであるから。,(クルアーン4:3)
2-全知かつ最も英知あふれるお方は一夫多妻制を合法化される一方、非常に近い血縁関係にある近親の女性たち‐つまり姉妹どうしの女性や、女性とその叔母など‐を同時に娶ることを禁じられました。というのも妻同士の嫉妬心というのは非常に激しいもので、それゆえにそのようなことは近親関係の断絶の引き金となり、また近親内に敵意を生じさせる原因ともなりえるからです。
● 女性に婚約を申し込む時に行うこと:
女性に婚約を申し込みたい者は彼女と2人きりにならないような状態[11]で、結婚に際して自分が望んでいるものを確認する意味で、彼女を見ることが推奨されています。そしてこの時知った彼女の個人的なことを、他人に言いふらしたりすることのないようにします。
また女性も同様に婚約を申し込んできた男性を見ることが出来ますが、もし何らかの理由でそうすることが叶わない場合、信頼の置ける代理の女性などを彼のもとに遣わせて見て来てもらったりすることも出来ます。
● 女性がその夫に先立たれた後に再婚した場合、来世での伴侶は最後に夫婦関係にあった者となります。
● 既に婚約の申し込みをされている女性に婚約を申し込むことに関して:
婚約の際、互いの顔写真などを交換することは禁じられています。
また既に婚約の申し込みをされている女性に婚約の申し込みをすることも、禁じられています。もしこのようなことが起こり、かつ後から婚約の申し込みをした者が女性側から受け入れられたような場合、その約束は有効で正しいものとは見なされますが、その男性はアッラーとその使徒(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)の命に反したことになります。
但し先に婚約の申し込みをした者がそれを解消したり、または彼が別の者に対して婚約の申し込みをすることを許可したり、あるいは彼が女性側から拒否されたりした場合はその限りではありません。
● 女性の後見人は彼女のために、敬虔でよい男性を探さなければなりません。また自らの娘や姉妹を、敬虔さや善良さで知られるようなよい男性に結婚の目的で提示することに問題はありません。
● 完全に離婚されたり、あるいは夫に先立たれたりしてイッダ(待婚期間)の状態にある女性に、あからさまに婚約を申し込むことは禁じられています。但し男性が「あなたのような女性を欲している」というようなことを言い、それに対して女性が「あなたは嫌われたりはしないでしょう」などという風に暗に仄めかす形で婚約の意を提示することは許されています。
● 3回までは離婚されておらず、まだ元の夫にとって復縁不可能な形でイッダ(待婚期間)の状態にある女性に関しては、元の夫に限って言えばあからさまな形でも暗に仄めかす形でも彼女と復縁することが出来ます。但し元の夫以外の男性はそのような状態にある女性に対し、いかなる形でも婚約を申し込むことは出来ません。
● 婚姻の契約の根幹的要素:
婚姻の契約の根幹的要素は3つです:
1-夫婦間に乳兄妹関係や宗教の相違[12]など、婚姻の有効性を害するような要素が存在しないこと。
2-提示の言葉:女性の後見人‐あるいはその代理人‐が口にする、「あなたに(彼女を)結婚させましょう」とか「何某をあなたのものにしましょう」とかいう表現の言葉です。
3-受諾の言葉:夫となる男性‐あるいはその代理人‐が口にする、「この結婚を受諾しました」といったような表現の言葉です。
そして提示と受諾が成立した時点で、婚姻も成立したことになります。
● 婚姻に関しての女性の意思表示に関して:
初婚者であろうと既婚者であろうと、成人女性の後見人は彼女を結婚させる前に、その意思を確認しなければなりません。そして彼女を、彼女の嫌がる相手に無理やり結婚させたりすることは禁じられています。もし女性が同意しないまま婚姻の契約が成立してしまったような場合、彼女は契約破棄の権利を有します。
1-アブー・フライラ(彼にアッラーのご満悦あれ)によれば、預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)はこう言いました:「 “(未亡人や離婚女性などの)既婚女性は、明確にその意志を確認する前に結婚させてはならない。また初婚女性はその同意を得る前に、結婚させてはならない。”(教友たちが)言いました:“アッラーの使徒よ、(初婚女性の)同意とはいかに?”(預言者は)言いました:“(初婚女性の同意とは、羞恥心ゆえの)沈黙である。”」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[13])
2-ハンサー・ビント・ハッダーム・アル=アンサーリーヤ(彼女にアッラーのご満悦あれ)によれば彼女は以前結婚していたことがある女性でしたが、彼女の父は彼女の同意を無視して彼女をある男性に嫁がせました。それで彼女が(その件について陳情するために)アッラーの使徒(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)のもとを訪れると、彼はその結婚を解消させました。(アル=ブハーリーの伝承[14])
● 婚約に関する法的見解:
婚姻の契約に先立って、契約をする者が、金曜礼拝などの際の「不可欠の説教」を唱えることは推奨されています。それは以下のようなものです:
「実に全ての賛美はアッラーにこそあり。私たちはかれを讃え、かれのお力添えを乞い、かれに罪の赦しを乞います。私たちはアッラーに、私たち自身の悪と、私たちの悪行からのご加護を乞います。アッラーがお導きになられた者は、いかなる者も迷わせることが出来ません。そしてアッラーが迷わせられた者は、いかなる者も導くことが出来ません。私はいかなる共同者もない唯一のアッラーの他に真に崇拝すべきものはなく、ムハンマドはそのしもべであり使徒であることを証言します。
-信仰者たちよ、真のタクワー[15]でもってアッラー(のお怒りと懲罰を招くような事柄)から身を慎むのだ。そしてムスリムでなくして死んではならない。,(クルアーン3:102)
-人々よ、あなた方を1つの魂(アーダム)から創られ、次いでそれからその妻を創られ、そしてその2人から多くの男女を創り広げられたアッラー(のお怒りと懲罰を招くような事柄)から身を慎むのだ。そしてあなた方がかれにおいて同情し合うところのお方と、親戚の絆の断絶に対して身を慎め。アッラーは実に、あなた方の一部始終を見守られるお方である。,(クルアーン4:1)
-信仰者たちよ、アッラー(のお怒りと懲罰を招くような事柄)から身を慎み、真っ当な物言いをするのだ。そうすればアッラーはあなた方の行いを正され、あなた方の罪をお赦し下さるであろう。そしてアッラーとその使徒に従う者は、偉大な勝利を手にしたのである。,(クルアーン33:70-71)
それから2人の間の契約が執り行われ、2人の信頼の置ける男性ムスリムがその証人となります。
● 婚姻を祝福することに関して:
婚姻を祝福し、お祝いすることは推奨されています。
アブー・フライラ(彼にアッラーのご満悦あれ)は言いました:「アッラーの使徒(彼にアッラーからの平安と祝福あれ)は、婚姻のお祝いにはこう言いました:“アッラーが(あなた方の結婚において)あなた方に祝福を与え、降り注いでくれますように。そしてあなた方二人をよきものにおいて、縁結びして下さいますように。”」(アブー・ダーウードとイブン・マージャの伝承[16])
● 婚姻の契約が済んだら、晴れて2人はイスラーム法上の夫婦となり、2人きりになることが出来ます。例え婚約状態にあったとしても、この婚姻の契約が終了するまでは2人は夫婦であるとは見なされないため、2人きりになったりすることは出来ません。
● 契約時の女性の状態に関して:
女性が婚姻の契約をするにあたって、清浄な状態であるか月経の状態であるかは問われません。但し離婚に関してはその限りではなく、後に示すように女性が月経の状態にある時には禁じられます。
● 婚姻が有効になるための諸条件:
1-夫婦になる両者が特定されていること。
2-夫婦となる両者が共に同意していること。
3-妻となる女性側の後見人が同席すること。女性は後見人なしで結婚することを禁じられています[17]。
4-夫側が婚姻にあたって妻にマハル(贈与財)を差し出すこと。
5-夫婦間に婚姻を阻むような近親関係や乳兄妹関係、また両者の宗教の相違[18]など、婚姻の有効性を害するような要素が存在しないこと
● 後見人の諸条件:
妻側の後見人には、以下の要素が条件付けられます:
① 男性であること。
② 自由民であること。
③ 成人であること。
④ 理性を備えていること。
⑤ 常識と分別を備えていること。
⑥ 女性と後見人が同じ宗教を共有していること。
またイスラーム法における権威[19]は、後見人のいない啓典の民‐つまりユダヤ教徒とキリスト教徒‐の女性の後見人となることが出来ます。
後見人になる優先順位は次の通りです:
① 女性の父親。
② 彼が娘の婚姻に関して、後見人になるよう命じた者。
③ 女性の父方の祖父。
④ 女性の息子。
⑤ 女性の兄弟。
⑥ 女性の父方の叔父・伯父。
⑦ 上記の者以外で、最も近い血縁関係にある男性。
⑧ イスラーム法における権威[20]。
● 婚姻の契約に際しての承認に関して:
婚姻の契約の際、宗教を遵守し常識を備えた2人のムスリム成人男性が証人となることはスンナです。
そして上記の証人と共に、婚姻を公表してお披露目することが最善の形式となります。もし証人抜きでお披露目だけ行ったり、あるいはお披露目だけ行って証人を置かなかったりしても、その婚姻は正しいものと見なされます。
● もし女性にとって最も後見人となるべき人物が彼女の婚姻を不当に阻んだり、あるいは後見人となるべき条件を備えていなかったり、またあるいは非常に接触困難な状態にあったりする場合、彼の次に後見人となる資格を有する者が彼女の婚姻の後見人となります。
● 後見人なしでの婚姻に関して:
後見人なしでの婚姻は誤りです[21]。もしそのようなことが発生したら裁判官[22]のもとで契約を破棄するか、あるいは離婚しなければなりません。
もしこのような正しくない婚姻のもとで肉体関係が結ばれてしまった場合、女性には男性側が婚姻において約束したマハル(贈与財)の全てを得る権利があります。それはその肉体関係ゆえに発生した彼女の損失ゆえのものです。
● 婚姻における考慮すべき夫婦間の釣り合い:
夫婦間において考慮すべき釣り合いとは、①宗教(の同一性)と、②自由民、の2つの観点です。
ゆえに後見人が慎ましい女性を放縦な男性に嫁がせたり、あるいは自由民の女性を奴隷身分の男性に嫁がせたりしても、婚姻自体は有効なものとなります。そして後者の場合、女性は婚姻状態を継続させるか、あるいは破棄させるかの選択権を有します。
● 性交の目的:
性交の目的には3つあります:
① 子孫の確保。
② 抑制し続ければ害をもたらす分泌液の処理と欲望の解消。
③ 快楽と恩恵の享受‐そしてこの要素は、天国においてのみ完全な形で味わうことが出来ます。
● 初夜に関して:
1-初夜にあたって男性は女性に優しく接し、そして彼女の前頭部に手を置いてこう唱え、祝福を願うのが良いでしょう:
「アッラーよ、私はそこにある良きものを求め、あなたがそのように創造されたところの良きものを求めます。そしてそこにある悪から、そしてあなたがそのように創造されたところの悪しきものからのご加護を求めます。」(アブー・ダーウードとイブン・マージャの伝承[23])
2-また2人が交わる前には、こう唱えるのがスンナです:
「アッラーの御名において。アッラーよ、私たちからシャイターンを退けて下さい。そして私たちに授けて下さったものからシャイターンを退けて下さい。」そしてそう唱えれば、もしその行為によって子供が出来るように運命付けられていたとしても、シャイターンが彼あるいは彼女を害することは決してないでしょう。(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[24])
3-性交の体勢に関しての決まりは何もありませんが、肛門を用いたものは禁じられます。
● 夫婦が一緒に入浴することに関して:
夫婦が一旦性交を終えた後に再びそれを望むような場合には、両者ともサラー(礼拝)の時にするようなウドゥー[25]を行うのがスンナです。グスル[26]の方が好ましいとされますが、いずれの場合も心身を活性化させてくれることでしょう。
また例え互いの裸体を目にしてしまうような状態であっても、夫婦は自宅の浴室などで一緒に入浴することが許されています。
アーイシャ(彼女にアッラーのご満悦あれ)は言いました:「アッラーの使徒(彼にアッラーからの平安と祝福あれ)は杯を用いてグスルしたものですが、それはファラク(と呼ばれる杯)でした。そして私と彼は、1つの容器で体を洗浄したものです。‐クタイバ(このハディースの伝承者の1人)は言いました:“スフヤーン(同)は言いました:「ファラクは3サーア[27](の量)です。」”」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[28])
● また性交後は、ウドゥーすることなしに不浄な状態のまま寝てしまわないことが勧められています。
[1] 訳者注:預言者ムハンマド(彼にアッラーの祝福と平安あれ)の示した手法や道のこと。ムスリムは可能な限り、彼のスンナを踏襲するべきであるとされています。
[2] 訳者注:無論これは去勢そのものではなく、性的欲望の減少効果を示しています。
[3] サヒーフ・アル=ブハーリー(5066)、サヒーフ・ムスリム(1400)。文章はアル=ブハーリーのもの。
[4] 訳者注:この伝承の内容は同様に、女性が配偶者を選ぶ基準を示してもいます。男性を対象に表現されているのは、大概の場合婚姻を求めて奔走するのは男性であるからだと言われています。
[5] 訳者注:原語では「あなたの手が(貧困などによって)砂に汚れてしまうがいい」という祈願の形の文章になっていますが、実際のところは伝承の中で語られている内容の行為を強く奨励する意味を示していることから、こう意訳しました。
[6] サヒーフ・アル=ブハーリー(5090)、サヒーフ・ムスリム(1466)。文章はアル=ブハーリーのもの。
[7] 訳者注:同様にこの規定も男性に当てはまります。
[8] サヒーフ・ムスリム(1467)。
[9] 訳者注:ワハバ・アル=ズハイリー博士はこの件に関し、その著「アル=フィクフ・アル=イスラーミー・ワ・アッディラトフ」の中でこう述べています:「一夫一妻制こそが最善かつ大方のケースであり、またイスラーム法上の基本でもあります。一方一夫多妻はそうした基本における稀で例外的なケースであり、よほどの必要性がない限りそれを実行することはありません。また一夫多妻はイスラーム法によって義務付けられているわけでもなければ、推奨されているわけでもありません。実にイスラーム法はいくつかの一般的な、あるいは特別な事情においてそれを合法化したのです。」そしてその事情について、以下のような例を挙げています(簡略):「①一般的な事情‐1.原因はともあれ、男性の数に比して女性の数が増大したような場合。2.社会が人口の増加を必要としているような場合。3.イスラームの布教のために親戚関係を結ぶなどの必要がある場合。②特別な事情‐1.妻の不妊や病、あるいは夫との性格不一致。2.夫が妻を非常に毛嫌いするような時がある場合。3.夫の性的欲望が非常に強い場合。」(9/6670-6673)
[10] 訳者注:ちなみに現代において奴隷身分は存在しませんが、奴隷女性の主人は婚姻契約なしに彼女と交わることが可能です。そして彼女を自らの妻と平等に扱う義務もありません。
[11] 訳者注:つまり女性側の後見人などが同席している状態のことです。
[12] 訳者注:男性ムスリムに関して言えば、ユダヤ教徒やキリスト教徒などの啓典の民の女性と通婚することは可能です。一方女性ムスリムは男性ムスリム以外とは通婚することが許されていません。
[13] サヒーフ・アル=ブハーリー(5136)、サヒーフ・ムスリム(1419)。
[14] サヒーフ・アル=ブハーリー(5138)。
[15] 訳者注:「タクワー」は「自らを守る」という動詞の名詞形。つまりアッラーを畏れ、またそのお怒りと懲罰につながるような行い‐つまりかれが命じられたことに反したり、あるいは禁じられた事柄を犯したりすることなど‐を避けることで、自らの身をアッラーのお怒りや懲罰から守ることを意味します。
[16] 真正な伝承。スナン・アブー・ダーウード(2130)、スナン・イブン・マージャ(1905)。文章はイブン・マージャのもの。
[17] 訳者注:4大法学派の内の1つであるハナフィー学派の創始者アブー・ハニーファ、そしてその高弟アブー・ユースフは、理性を備えている自由民の成人女性は後見人なしでも自ら結婚出来るとの見解を示しています。
[18] 訳者注:男性ムスリムに関して言えば、ユダヤ教徒やキリスト教徒などの啓典の民の女性と通婚することは可能です。一方女性ムスリムは男性ムスリム以外とは通婚することが許されていません。
[19] 訳者注:イスラーム国家の統治者や、イスラーム法の裁判官のことです。そのような機関が存在しない非ムスリム国や地域に居住するムスリムは、そこにおけるイスラーム的権威である学者やイマームなどに依拠することになります。
[20] 訳者注:訳者注19参照のこと。
[21] 訳者注:4大法学派の内の1つであるハナフィー学派の創始者アブー・ハニーファ、そしてその高弟アブー・ユースフは、理性を備えている自由民の成人女性は後見人なしでも自ら結婚出来るとの見解を示しています。
[22] 訳者注:イスラーム法で裁く裁判官のことです。そのような機関が存在しない非ムスリム国や地域に居住するムスリムは、そこにおけるイスラーム的権威である学者やイマームなどに依拠することになります。
[23] 良好な伝承。スナン・アブー・ダーウード(2160)、スナン・イブン・マージャ(2252)。文章はアブー・ダーウードのもの。
[24] サヒーフ・アル=ブハーリー(6388)、サヒーフ・ムスリム(1434)。文章はアル=ブハーリーのもの。
[25] 訳者注:イスラームにおいて定められたある一定の形式における、心身の清浄化を意図した体の各部位の洗浄。
[26] 訳者注:心身の清浄化を意図した全身の洗浄。
[27] 訳者注:サーアはマディーナの計量単位の1つで、1サーア(約2.4ℓ)は4ムッドに相当します。
[28] サヒーフ・アル=ブハーリー(250)、サヒーフ・ムスリム(319)。文章はムスリムのもの。